MUJINA
コテハン名 MUJINA (トリップ:◆iXws.WGCLY)

説明 梁山泊スレでおなじみの審査員で、的確な批評には定評があり、梁山泊スレに書き込むものの
ほとんどが彼の名を知っている。
もちろんみんなからの信頼が厚くたまに詩も書く。

コテの由来
詩・評価レベル 高い

騙り いない

厨房レベル 低い

出現スレ 梁山泊関連スレに主に出現

代表作品 -- 梁山泊 11th edition の319-320 第六十八回 お題:「金」より --

「言葉」屋

「言葉を売ります」と書かれたプラカードを掲げて街角にサンドイッチマンが立っていた。そこに書かれている地図を頼りに路地裏に足を踏み入れた。
 麻雀店や中国整体、風俗店などが入っている雑居ビルの狭い階段を昇ると四階にその店はあった。中を覗くと、蝶ネクタイを結び白髪をきれいに後ろに束ねた老人がひとり、カウンターに座っていた。
 店主は私に向かって軽く会釈すると、その店の豊富な品揃えと品質の確かさをひとくさり述べた。
『日持ちしますよ。勉強しますから』
 そう言っておもむろにガラスケースから取り出したのものは、「永遠の愛」と箱に書かれた商品だった。箱の中には結婚指輪の真珠のような光沢を持った「言葉」が魚市場のイクラのようにきれいに粒を揃えて並べられていた。
『どれぐらい持つの』
『冷蔵庫に入れとけば三日ぐらい』

 次に取り出したのが「ぜったい」というブランド名の商品だった。「ぜったい儲かります」「ぜっだい合格させます」「ぜったい痩せます」と烙印を押された饅頭が、うまそうに薄紙に包まれていた。
 それでも私が買い渋っていると、『最近、入荷したばかりのものですが』と言いながら、店の奥から出してくれたのは、「癒し」というパッケージに入った錠剤だった。効能書きにはこう記されていた。

 悲恋失恋胃痙攣。左遷リストラそうはさせん。夫の浮気妻の浮気、単なる浮気、本
 気の浮気―は浮気じゃない。不倫絶倫金輪際しません不倫の三輪車。将来の不安、
 現在の不満、過去の失敗、いつも必敗、失敗は成功のもと、でも必敗は何回やって
 も必ず失敗。顔の悩み、体の悩み、足の悩み、手の悩み、上腕二頭筋の悩み、そんな
 悩みあるか。心の悩みはみんなの悩み、悩みのないあなたはオツムが悩み。痔ろう早漏
 勘九郎、歌舞伎役者に大根役者、また旅役者が好きなのはうちのタマ。心の傷からタマ
 の昨夜の喧嘩の傷に至るまで 何にでも効きます。朝昼晩、三度三度の三度笠、三度笠は
 また旅役者、ああこれはさっきやった。三度三度の三々九度、披露宴での食前食後、食前
 のスピ―チが長い早く食わせろ。朝飯抜きは朝飯前、朝飯食べたら二度寝する妻。就寝前
 に起床後に、仕事中も勉強中も、一日に何度でも発情、じゃなかった服用できます。

『心が痛い、と言って最近お客さんが見えて、よくこれを買っていくんです』
 店主は目を細めながら言い、続け様に言う。
『あなたもどこか、痛い心がありますか』
『実は、私も十年来の心の痛みがありましてね。思い切って先日、手術で切除したところ、すっかりよくなりました。ご心配には及びません』
『それはよござんした。それでは、ほかに何かご入りようの「言葉」はござんせんか』
 なおもしつこく聞くので、私は仕方なく
『それじゃ、「永遠の愛」を50グラムください』
 親爺は素早く目方を測ると包みにくるんで「愛」を差し出した。
『保冷剤を入れときました』
 私は包みを受けとると五千円札でおつりをもらい店を後にした。




-- 梁山泊 12th edition の126-127 第七十六回 お題:「〜がない」より --

言葉のない世界II

名前のない駅で汽車を降り
文字のない新聞を買って
見るともなしに眺めながら
時刻表にない汽車を待つ

プラットホームの花壇には
四季の花々が咲き
蜜蜂が蜜をせわしく集めている
ギイ とひとつ鳴いて
とらつぐみが木の枝を飛び立った
絹積雲が糸をひきながら
音もなく流れている
ああ いつもと変わらない午後の風景だ
ただ わたしと同じようにベンチで汽車を待つ人たちだけが
みな一様に油気がとれたような
つるりとした顔をして
呆けたように空ばかり見ている

看板のない店で
顔のない店員から
名前も値段もない商品を買い
買ったことも忘れ
道のない道を歩く
わたしはいつになく上機嫌で
空を見上げ
口笛を吹きながら
歌のない歌をメロディーに乗せる

言葉のない世界は
何と潔いのだろう
開悟した大師が初めて吸った空気をわたしも吸うと
大きく一回くしゃみをした
そうしたら
世界の底が抜け
空がひっくり返った




-- 梁山泊 14th edition の617-621 第九十八回 お題:「美」チャンプ作品より -- (代表作品として他薦)

老人はなぜ死ななければならなかったか

熟練工の手先でリズミカルに箆(へら)を使いながら
「ま、これも通過儀礼ってもんだ」
草むらで嘔吐する背中に声をかける
「非番を駆り出されて、この手当てじゃあ、合わないけどよ」
白髪まじりは大バサミで肉塊をつまみとると、清掃夫の手つきで
ビニール袋に入れた

――――――――――殺したのだ

緊急停止を告げるアナウンスが流れると、電車は傾き
人人は前のめりになる
車体が何かに乗り上げた
 ガガガガガガガ――
異物が下を通過する振動

 人身事故が発生しました

次の駅を告げるときと寸分違わぬ車掌のアナウンスの声
乗客の嘆声と舌打ちがさざ波のように広がる

――――――――――お前が殺したのだ

 ただいま運転手が救出に向かっております。お客様はもうしばらくお待ちください

「わたくし、他人に迷惑をかける人って最低に思いますわ」
帽子に羽根をさした年配の婦人の金の前歯が光った
「ヤラレタ。これで二度めだよ」
「夕食まだなんだ。遅くなるけど作っといて」
「もう、やってらんねーから、車で迎えにきてくれよ」
携帯に向かって口口にぶちまける

――――――――――お前が、お前たちが殺したのだ

老人はずぶ濡れで立っていた
列車の接近を告げる警報機の音は、いつもより
ずいぶんと小さく聞こえた
一歩前に進める
なぜか足は震えていなかった
頭のがらんどうの中に言葉が紐に結ばれてぶら下がっていた
奴らから浴びせられた言葉
それが蝿でも飛ぶような不規則な動きで
弧を描いて飛んでいた
点灯するシグナルが無機質のように赤い
その光が再び感情に火を灯した
怒りでもなく悲哀でもない
いったい何と名づけたらよいか、まるで検討がつかなかった
とにかく、その感情をもう一度確かめねば
通過する電車の矢印に目をやって
老人は遮断機をくぐった

いま、ひとが死んだ
電車の床の下に、轢死体が転がっている
その紛れのない事実の上にあるこの空間で息を吸っている
死臭はまったくしない

――――――――――お前が殺した、お前が、お前が、お前が殺したのだ
殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ
お前が

僕は美しい詩を読みたくない
ましてや
美しいだけの詩など書きたくもない