第八回
お題:冒険
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チャンプ作品
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撫子さん◆eEr7LE3I
- 635 名前:生きろ!
投稿日:02/07/21 17:53 ID:WzZ1Zcza
- 初めてだった時は 燃えるルージュで
くちびる紅く濡らして 震える舌を隠した
だけど服は重装備 ジャングルでも行くように
サバイバルブーツまで履いて 参る!あなたの部屋へ
見たこともない古いオーディオ装置
初めて見るスナフキン
真っ黒な革クッションの上に
注意書き[猛獣注意」!
生きろ生きて帰ろ
息が荒ぶる
生きろ生きて帰ろ
いっそ生まれかわっちゃえ!
ヒャクヨンジュウナナ回目ともなれば ナナナナナナロクナンバーの車で
乗りつける二人のあなたの部屋へ 決死の覚悟だ
スッピンでただのティーシャツに 髪は寝起きのままで
ブライダル臭まで匂わせて 参る!あなたの部屋へ
これが真実の恋ならば
飾る必要なんてない
でももし真実未満だったなら
今日で壊れるこの恋ね
三日履きっぱなしのブルージーンズで
あなたの部屋
生きろ生きて帰ろ
いっそ生まれかわっちゃえ!
生きろ今だ生きろ
生きろ急げ!
生きろそこだ生きろ
いっそ生まれかわっちゃえ!
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チャンプ作品に対する批評 |
Canopus◆j1h.j3e.
何といってもシビれたのが、前半と後半での「生きろ」の意味の違い。
前半では「食べられないよう生き延びろ」が、後半には「生きるために食べちゃえ」に変るんですね。
かくて少女は大人に生れ変わり、妖怪ツノカクシに変貌するのです。
簡単なことばでこれだけの事を表現したのはヤッタ!の一言です。嫉妬すら感じちゃうぞの3点。
マイマイカムリ◆BPIliBR2
今日、本屋でユリイカという雑誌を立ち読みしました。
詩はほんの少しで論文が主体なんですね。
投稿詩をみましたが、どうってことはないですね。
>>635 :生きろ! :02/07/21 17:53 ID:WzZ1Zcza>3点
今回、私が推すこのチャンプ候補作のほうがずっといい。
技術も構成力も高く、何より言葉が生きています。
ある年頃のある時期の冒険心に溢れたときでなければ書けない。
正直、羨ましいですよ。
509恩田朗◆FEgWNVKI
やっぱりコレです。審査員最後の回にこういう作品に会えてよかった。
J−POPの歌詞のようなんですが、これほど「読ませる歌詞」って、なかなかないと思うんですね。
ラブソングなんだけど、人生の歌みたいにも読めてしまう深みを感じました。
それにもちろん、パワーがある!
「真実の恋」なんて陳腐な表現が出て来るんですけど、これが陳腐に感じないのがまた不思議だ。
おそらく確信犯でしょうね。 文脈によって言葉を生かしてる、という印象を強く受けました。
「ブライダル臭」は、3回読み直して3回爆笑したし。(笑) テーマにももっとも自然に合っていた作品だと思います。
文句なし! 自信をもってチャンプに推させていただきます。(3点)
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準チャンプ作品 |
うたた寝死人◆ShSU0mOg
704 名前:わしの冒険 投稿日:02/07/25 21:22 ID:???
- みのもんたの茶けた顔が消え 婆さんは皿洗いをする
新聞の続きでも読むか どこに置いたか拡大鏡
プルルと電話が無遠慮に鳴り
予定を切り崩しはじめる
踊っとる 癇に障る声 3軒向こうの 丸山の爺
呼び出されたわしらは なめくじの速さで 向かった
「おーい丸山さん
来ましたよ・・・
・・・入りますよ」
がらがら音たてる格子戸 熱気に落とされる 陰
開いた足で仁王立ちしている 腕組んだ丸山の
・・・丸山の?
整髪剤で固めた横の髪 すだれに落とした 前髪
横でばあさんが息を飲む音 黄色い 丸山の頭
わしはぽかーんとしていた 背をしゃきっとさせるのも忘れて
カナブンの色をした爺を
ぼさっと ぼさっと
「いやー床屋の兄ちゃんが『お若いですからどうですか』ってさ。
ファリソンフォードにしてくれって言っちまいました
いいでしょう。」
気持ちは若くなきゃ駄目でしょ いいもんですよこういうのも
補聴器はつけたままなのに 声が遠く にぶっている
土間に立つわしの頂点を 丸山が目で なでている
鬼の首でも取ったみたいに 勝ち誇った顔をして
垂れ流す講釈に ミンミンゼミが音量を
上げた
あの爺めが偉そうに わしと2歳も違わんくせに
わしらは地べたを見ながら 家へ 向かっていた
腹に据えかねたわしの隣 婆さんは 怒り心頭
今にみておれ今にみておれ 爺さん床屋へ行って
床屋へ行って。
「婆さん・・・」
ふくら雀みたいな 婆さんが軍曹に見えた
長閑な午後は爆破された 青筋でたぎる 血液
喉仏が
上下した 一回二回 三回
四回目と同時に 薄くなった眉を上げ頷いた
ああ見返したるい。
- 705 名前:わしの冒険つづき 投稿日:02/07/25 21:23 ID:???
- いつもと違う床屋に行く 外人のポスターが沢山の
変わった椅子 さながら電気椅子 わしは 生まれ変わる
「あのエゲレスの ベッカムみたいにしてくれ」
何がハリソンフォードだ 今の時代若もんはベッカムだ
禿ちゃびんのわしの頭 兄ちゃんの
指が止まる
「あのでもっすね」
「ベッカム!」
「・・・・・・ベッカムすか」
横の髪を寄せて集めて 何とか 禿が埋まる
うむそれとなく玉ねぎ
色も忘れずつけてくれ ベッカムに男前にしてくれ
出来上がる金色の玉ねぎ なかなかやるな わし
通りを歩く奴らが 振り返りよる
中学生も主婦も犬も わしのことを 見とる
ええ気分だ久しくなかった ええ気分だ
出来る限り張った胸で闊歩
待ってろ 丸山
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wildcat賞 |
とびお◆Eso6Eso6
- 581 名前:冒険
投稿日:02/07/20 00:21 ID:+P7KzNTe
- 急がなくてはならない
水槽の匂いのする
鈍くて淡いざわめきを
夜の葉が編んでいるうちに
グールドの永遠に
鍵盤と会話する声
生温い風が目の前を
駆け抜けてゆく音
しかしどちらも
聞く価値はない
走り続ける
鍛練も恐怖も
必要とせずに
誰かが欠けたコップで
青空の広がる砂浜で
緩やかな丘を作る
そこに辿り着くまで
私は息をはずませて
明るい夜の看板を頼りに
その丘が崩れ落ちる前に
走らなければならない
すでに渇いた砂が
海に浮かぶ霞んだ星を
抱き締めている
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