第四十二回

お題:

チャンプ作品
犬大好き

661 名前:心臓 投稿日:03/08/10 23:59 ID:QHtWT3dZ

水中に似合って青い 半透明の君の
さっきまで動いていた心臓が 予熱で柿のように輝いてみえる

こうしてると海は深いというより高く
ふたりは手をとりあったまま ゆるい弧を描いて降下していく


ときおり虹色のちいさなつぶが 遠い海面に向かい
あれは海底の戦闘機が ためいきのように漏らしたオイルのつぶ

パイロットはきっと 操縦席に密閉されたまま
何千もの夜と 水死者の列を見送っているのだ


やがて闇の底に 巨大な蛇のうろこのきらめき
長い列をなした無数の光がみえはじめた

TVでみた夜の高速道路がこんな感じだった
ふたりは深い空気の底の 暗いあの町に落下しているのだろうか

目玉がいよいよ透明になりはじめると 君は青い闇に溶け
その心臓だけが 最後までほのかに赤い



チャンプ作品に対する批評
Canopus◆DYj1h.j3e.
3点。
上手いし、情景描写もいいと思う。でも、二人で海底に落ちているけ
ど、徹頭徹尾「ぼく」の視点で書いてあって、「君」の体は見えるのに、もう
一人の片割れの姿が見えないんだよね。そこが欠点。
君の姿しか見えないのが残念ですが、ちょっと新しい美しさに。

4th◆HdqTLODCXU
3点。
重たいのは太陽への憧れ
ひっぱられて焼き尽くされないように海底でビクともしない
こびりつきの属性を握りしめて動かない色のまました心臓

ame◆yUHAxrOw2c
1点。
谷山浩子「冷たい水の中をきみと歩いていく」というデジャヴが自分にある。
あれが水面を「見上げる」ものだとすると、こっちは水底を「見下ろす」のだろう。
個人的には「見上げる」視点も書いてくれるといいのにな、と思ったり?
でも水平に対象がいてしまうからなぁ・・・。





準チャンプ作品

594 名前:薔薇 投稿日:03/08/05 02:44 ID:Qbc+qS/O
青い薔薇を追い求めた若い研究者は その鮮明な青に惹かれるあまり
部屋の壁紙からマグカップ、眼鏡 果てにはその頭髪までも青に染めてしまった
遺伝子の螺旋を眺める彼の目には血の色は無く 
限りなく白眼に近い細い眼球が蠢いていた

それはそれはもう綺麗な青空を見たのは5年も前のことで
彼が見るのは原子の織り成す壮大なミクロコスモス
そこには夜も無く昼も無く、幾億光年の歴史を記憶する無力な蛋白質の一日だけ

それから幾年
彼のことを殆ど誰もがすっかり忘れ去ったころ
彼はその青い研究室の顕微鏡に誰も見たことの無い宇宙を見たという
「そこにある地球の姿に 青い薔薇の秘密を見つけた」
彼の遺体のすぐそばには殴り書きのメモ
しかし私が見たのは、すっかり色を失った彼の抜け殻と、一輪の薔薇だけ
勿論、その薔薇には色は無かった

彼の墓前には それからというもの、青い薔薇が添えられるようになった
香しい薔薇の香りを模倣した プラスティック繊維の蒼い薔薇
「いつかは、地球のような、神々しい青い薔薇が咲き乱れるように」
彼の墓石に刻まれた時代遅れの鎮魂の辞は
その数日後 誰かに傷つけられていた

その後、彼の研究室は遺伝子治療研究のために 若い研究者が引き継いだという
その時は誰もが、その先にあるプラスティックの地球に気付かなかったことだろう
彼は予言していた
原色で構成される、原子の中の宇宙が
彼の妄想ではなく その先に通ずる確信であったことを

彼の墓前の造花が 枯れ果てていたのを私は見たのだ