第四十一回

お題:

チャンプ作品
Canopus◆DYj1h.j3e.

468 名前:大トランポリン駅にて(1) 投稿日:03/07/27 17:40 ID:fhqifTJ9

3か月前にあたしをふった
彼氏が旅に出るってんで
40度の熱があって あたしはたたき起こされて
着のみ 着のまま
葛西シルチスのアマゾン鳥が鳴く金町方面
あたしひとり 駅まで見送りに

プラットホームには この駅始発の列車が もう待機していて
そのむこうには彼氏が 始めてのデートの時のように
大きく手を振って 笑顔であたしを呼んでいた

ただひとつ あの頃と違っていたのは
駅の構内が全部トランポリンで あたしも彼氏もぽんぽん弾んで
彼氏なんか完全な球形で 器用にぽんぽん ぽんぽん
あたしはぽんぽん揺られて高熱でうんうんうなされて
彼氏に近付きたくても 入場券しか持ってないから
うっかりバウンドが外れて列車に乗っちゃったら死刑だから
膝とおしりで慎重にぽんぽん 発車のベルが今にも鳴りそうだった


469 名前:大トランポリン駅にて(2) 投稿日:03/07/27 17:41 ID:fhqifTJ9
「なんだい その格好は」
球形の彼氏はにやけて
口を裂いて大きな舌から触角を伸ばして言った
そうだ あたし たたき起こされたんだった
ベッドでうんうんいってるままの格好だった
パジャマの下 はいてなくて
おまけにゴムゆるゆるのパンツで
寝る前にちょっといじった所にシミがついてて
トランポリンが弾むたび そんなとこがまる見え
胸もお腹も 少しはだけて 隠そうと思ってもうまくいかない
ぽんぽん あたしは丸まって 「お前のシリ サイコー」
そうだあなたは あたしのヒップラインが好きだったんだっけ
あなたは触角の先から目を突き出して 久しぶりに視線が痛い
たくさんの突起を伸ばして あたしをさわって
長い舌であたしのお腹を舐めまわして あたしはのけ反って
頭が痛いのに あ と小さく呻いてしまう 彼氏の喜ぶ声

思い出したいことは 別れる前に交わしたいことばは
こんなんじゃないのに
ほかにもいろいろあるはずなのに
こんなことありえないのに どうして


470 名前:大トランポリン駅にて(終) 投稿日:03/07/27 17:42 ID:fhqifTJ9

でもね
あなたとあたしって 同じ高さにちょっとしかいないじゃない
バウンドの高さもリズムも まるで違うから
いつも擦れちがって ほんとはね
あたしも あなたといっしょに行きたいんだけど
列車に乗ったら死刑だから 死刑になっちゃうから
しかたないじゃない さよなら
あたしはあきらめたように少しだけ泣いて にっこり笑って
彼氏に別れを

あたしは ぽんぽん うまく弾めるようになって
彼氏は突起を下に伸ばして ぽーんと飛び上がったかと思うと
不定型になって窓の隙間から にゅるにゅる
列車に爽やかに乗り込んで 発車のベルが鳴って
でもあたしは それを見ていなかった
あたしもいつの間にか完全な球形になって
一つの眼球になって
ゆっくりとあたしにあたしの瞼が覆い被さった
瞼の内が熱いのは 高熱のせいだろうか
あたしの 眼を閉じたその瞼をあなたは
いつまでも覚えていて

ください



チャンプ作品に対する批評
ドン亀◆YdTp8oxx7.
3点。
点数迷ったが3点くれてやる。結局は「怪」というより「夢」「変」だと思うんだが。。。
また、いくらトランポリンの描写だからといって擬音出しすぎ?とも思ったが。
しかしきっちり上手く構成されていて、読んでいて飽きない。
後に残るものは彼女のくぐもった感情以外なんもないとも思えるが、
しかしそれが印象的。堪能した。この野郎。


都立家政◆MD76fFko5o
3点。
なんつー題名だよw
江戸川乱歩の少年探偵シリーズを思い出す、
「鉄塔王」とか「空気男」とか「パノラマ島」とかかなり変だよね。
この言葉の組換え作業は詩人の大切な仕事の一つだと俺は思っている。
彼氏と死刑、
主人公は必死なのに「ポンポン」なんつー音がしちゃうのはまさに日常の狂気だよね、
人間が勝手に自分の人生に対して描くストーリー性と、
そんなものを簡単に超越したところに存在する適当な宇宙。
「怪」というよりも別のお題かなと思うところはあるけれど。

霧都◆SNOW/oy/Uw
2点。

ななほし◆lYiSp4aok.
3点。
面白い! 最後に女性の眼球に収束するのがまた、お見事!

ボルカ◆TcCutL/5sw
3点。
サービス満点ですね。読ませるッす。「失恋」と「電車」と「死刑」ってのは、
どことなく賢治的ってゆーか、なんだか宇宙的で、もしかしたら僕らの底に、
この3つをめぐって何か深いものがあるのかもしれないですね。
以前、遠距離恋愛を終らせたばかりの人に、何も言葉をかけられなかったことを
(忘れていたんですが)唐突に思い出して、僕はちょっとだけ、胸に痛みを覚え
ました。それは僕の勝手で、作者の人生と何の関係もありませんが、他者に身体
反応を起こさせる文字列って、すごいナと思います。





準チャンプ作品
ame◆yUHAxrOw2c

464 名前:スライド・エンド・ショップへようこそ (1) 投稿日:03/07/27 13:56 ID:USszhaRy
眩暈がして元に戻ったら 扉があったなんて
そんな意外性は最初から捨て置いた

 鏡を全部叩きつけて割ってみてから
 もう一度つぎはぎをして立てかけてみる
 蝋燭の両側に2枚立てたその鏡たちは
 いつまでも縮小されるだけの無限ループ

皆が想像する異世界への連絡網の形式を
いくつかに分類するとしても
その元をたどれば長々と続いてきたマンネリのように
きりがないから諦めるだけ

愛想のない骨董屋なんてごく普通の店だから
置いてあるものが全部西洋じみてても気にしなかった
店を真っ直ぐ入ったところで
いきなり窓にぶつかったことをのぞけば

道筋のわからない風景の空間
湿地のように暗いの誰かの顔の絵が掛けられて
きっと冬の夕暮れを思い出すような
この明かりには境界も何もなかった

 鏡を全部叩きつけて割ってみてから
 もう一度つぎはぎをして立てかけてみる
 蝋燭の両側に2枚立てたその鏡たちは
 いつまでも縮小されるだけの無限ループ



465 名前:スライド・エンド・ショップへようこそ (2) 投稿日:03/07/27 13:57 ID:USszhaRy

たどり着いた店番は意思の見えない小さな格好で
その場所の向こうに見える屋根裏部屋は空色だ
それまでにすでに方向感覚を失ってた自分は
手元にあった1冊の本を渡して
もごもごと呟く店番に金を渡した
店番は出口を指差したのかどうかは知らないが
向きをかえて立ち去りながらもう一度つぶやく

 「・・・エンド・ショップ」とだけは聞こえた気がするのだが


帰りも散々迷ったあげくに
暗がりからいきなり外に飛び出した自分は
もういつもの夏の夕暮れだった

結局持ち帰らなかった商品たちも二度と会うことはないから
その店番の顔もきっと忘れるためにあるのだと考える
それでも奇怪な店の風景だけは
あの親父さんの絵を見たときにまた思い出す

 鏡を全部叩きつけて割ってみてから
 もう一度つぎはぎをして立てかけてみる
 蝋燭の両側に2枚立てたその鏡たちは
 いつまでも縮小されるだけの無限ループ

いま残った1冊の本をこうして掲げてみたとしても
誰もその存在を証明はできないように
その風景や扉に掲げた店名
そして中に佇む店番の格好をした登場人物を

ぼくはこれ以上大きな声ではしゃべれない