第四回

お題:

チャンプ作品
Canopus◆j1h.j3e.
678 名前:ささやかなその両手につつまれて 投稿日:02/06/11 02:16 ID:???
娘のおえかき画用紙に 黒いクレヨンでおおきく
ぼくはパウル・クレーの天使の絵をかいた。

単純なモノクロームの曲線。やさしく閉じたひとみ。かるくほころんだ口もと。
おおきな二つの翼。いつしかぼくはことばに出して絵をかいていた。
落書きにはもってこいの「優しい」絵だ。娘に言いきかせるようにしてぼくは
天使の絵をかく。どこに出してもおかしくないパウル・クレーの天使。
そして胸のまえで さりげなくかかげられた両方の手のひら。

ぼくはそこでクレヨンが止まった。天使がなにを大切そうに持っているのかが
わからなかったのだ。手のひらの間の微妙な距離にはじめて気付く。まっしろ
の透明な空間になにかが確かにあったのだ。妻は娘をだっこする。ぼくは妻を
だっこする。そしてぼくは誰かにだっこされる。だっこの陶酔感。

娘がぼくの天使の絵の上に 赤いクレヨンでおおきな円を何個もかいた。
天使の手のひらの間をはみだして 画用紙からもはみだして。

いつだったか ある評論家が「日本人はクレーが好きで困ったもんだ」
というようなことを言っていた。
おおきなお世話だ。



チャンプ作品に対する批評
wildcat
>手のひらの間の微妙な距離にはじめて気付く。

>娘がぼくの天使の絵の上に 赤いクレヨンでおおきな円を何個もかいた。
>天使の手のひらの間をはみだして 画用紙からもはみだして。

 これこそ、詩の醍醐味というとも言うべきものでしょう。
パウルクレーの絵になぞらえて、家族への作者の愛が
伝わってきました。とくに引用した部分は、わかりやすい言葉
しか使ってないのに、大きな広がりを持たせることに成功してます。
らくがきが、枠をはみ出してもそれを深い愛情で包込む暖かさ。
私はここに描かれた円の行方が、とても気になりました。

うたた寝死人◆ShSU0mOg
パウル・クレーの天使、知らなかったので調べてみたら、思い込みとだいぶ違っていました。
  こんな絵→ http://www.paul-klee-japan.com/
678、この詩自体が、低い筆圧のクレヨンで描かれた丸のようです。
画用紙の中の天使から、言葉という形で、だっこという形でと、世界が少しづつ広がっていく。丸い丸い、世界が。
クレヨンと共に詩の流れを止めるなど、何の抵抗もなく読ませる工夫がいい。
 色もきれいなんですよね。画用紙の白、天使の黒、空白を埋める丸の赤。
団らんのオレンジやソファーの色も混ざるのかなあと、どんどんイメージが広がります。
 最終連、少し硬くなるのが好きじゃないのですが、それでも、「おおきなお世話だ」で角がとってあって。巧いです。
詩を丸くするのに大きな役割を果たしている、平易な単語とひらがなの割合がお見事。

509◆FEgWNVKI
有名な既存の作品(絵)を取り入れた、パロディー的な作品ですね。
しかしクレーの絵に詩のイメージを依存しきっていないところが高評価。
若い夫婦と一人娘が醸し出すやわらかな家庭の雰囲気とクレーの天使が重なりあって、
現代日本のしあわせ家族の絵がパァーッと見えてきました。
だっこで重なりあうところなんて、思わずにっこり。ちょっと甘すぎるような感じがしないでもないけど。

日那茶◆7xRRYqqU
寸評でコメントしてますが、更に付け加えて作品全体の柔らかさとは逆に、
読み手を飽きさせない一種の緊張感があって、最後までしっかりした作りを通していました。
そしてやはりキメは「おおきなお世話だ」のあの一言。文句なしです。

天竺◆FUCK/JMs
すらすら読めたし、とても伝わりやすかった。状況も手に取るように見える。
全体に流れる雰囲気も統一されていて、引っかかるところがない。退屈とは別ですよ。
透明な空間のあたりも目を引き、感じるところの多い詩でした。ただ、終わり方は
なんか、かわされたような感じでした。わざとかも知れませんが。

撫子さん◆eEr7LE3I
イイ!んだけどさ。なんかTVCMの一場面みたいで、プロパガンダ的なものまで感じちったよ★
純粋なようで、ひじょーに純粋じゃないんだよなー★最後はいきなり説明的。
TVタレントか誰かに「日本人はパウル・クレーが好きで」とかいわせたほうが破綻がないと思たよ。84てん。





準チャンプ作品
729 名前:ポーンの野望 投稿日:02/06/15 00:33 ID:???
盤上の市松模様が 脳の中で振れる
瞳孔は大きく開き 乾く眼球に ヒビが入る
 耳の後ろの嚥下音

あなたの白いナイトが 私の黒を駆逐する
繊細かつ丹念に 幾何学を舞い 降ってくる
 騎士はあなたのお気に入り

手に汗が浮くたびにいつも  駒は滑りテーブルの下
赤を帯びた 指先を  軋ませて強く色を抜く
鈍痛で脳にクサビを打てば
 空回る輪が戻す規律

黒の女王は
ヒステリーを起こさない
控えめに 足を運び
すぐ目の前にヒール下ろす
 あなたの 誤算
 眉に浮かんですぐ薄まる

女王陛下はもう走らない
戦術を 学んだのだ
あなたの目の前にいるのは
今日の
現在の私


 脇に置かれたカップの中で 熱を失うダージリン
 残っている水の量が そのままそっくりあなたとの差異

 けれど   だけれども
ポーンはいつしかナイトを抜いて クイーンの冠(かん)を戴くのだ


あなたは気付いているだろうか ルークの消えた左サイド
私の 次の1手で ビショップが白のポーンを散らす
あなたは気付いているだろうか ルークの消えた左サイド
邪魔者が去る最端に 前進するポーンの野望

このターンで
あなたのナイトが戻らなければ
私のポーンはナイトを超える
 あなたは最後の一口を

 カップごしに交わす視線


ちゃちな私の布陣で 考え得る渾身の手で
あなたに牙を立てるから
 さあ   早く
あなたのとっておきの 手を
あなたの思うままの 手を
何度でも 挑んでいくから
さあ  さあ

早く