第三十八回

お題:帽子

チャンプ作品
激辛正当派 ◆PmUYNHN29Q

163 名前:名もない場所 1 投稿日:03/06/24 02:30 ID:e5cwERpm
白い帽子を目深にかぶり
もも色の パンプスを履いたあなたはゆっくりと
小暗い竹薮をつらぬく
狭い石段を 登ってゆく
しるべのない洛北の山道で
あなたはただ迷子になりたがっていたのだ
そこがたぶん あなたの行きたかった“名もない場所”

(そんなものありはしない――とぼくは言わなかった)

帽子のせいであなたの表情は見えない
ただ小さく喘ぐあなたの左手を
しずかに引くのがぼくの役目だ
黙っていると 湿ったてのひらの脈動だけが鮮明で
目覚めながら古い夢を繰り返し見ているような気分だった
不思議に小鳥の声ひとつ聞こえない
風も吹かない 夏の午後だ

(ぼくらは何も見ずに――)

ぼくらは何も見ずにここまで来た
目隠しでぼくらは出会い
目隠しのまま裸になったりした
いったいふたりはどこに立っているのか
どうせぼくらは何も知らなかった

名付けられた場所を歩くとき
あなたはいつも白い帽子をかぶる
あるいはかぶっているかのように
ずっと視線を下げたまま
どこにいるかも見ないまま
ぼくの手を ずっと握りしめているだけで

164 名前:名もない場所 2 投稿日:03/06/24 02:31 ID:e5cwERpm

***

登りつめると風があらわれ
広い夕空がひらかれる
その下 照り映える円形の広場はあり
小高い西側の崖のそばに
古い祠と巨きな神木が立っていた
あなたはぼくの手を離れると
祠の奥にある竹矢来の方へと駆けてゆく

(なんて眩しい夢なのだろう――とぼくは思った)

ちょうど真正面に沈んでゆく夕日を
あなたは眩しそうにしながらオレンジ色の帽子をとり
くしゃくしゃにしてカバンの中へ押しこむ
ながい髪が波のかたちに揺れて
ようやくあなたの顔があらわれる
「ここはどこだろう」
と僕が言うと
あなたはなぜか得意そうにぼくの手をつかみ
「どこでも」とつぶやくのだ

そしてそのまま空ばかり
ずっと眺めているのだった



チャンプ作品に対する批評
Canopus◆DYj1h.j3e.
2点。
1連めの“名もない場所”がわざとらしいですが、ここは詩のキモの部分なので、何も言いますまい。
徹頭徹尾、夢にも似た情景を描くことにより、あらゆる時空の座標に存在する
特別な場所を表現することに成功しています。抑制のきいたことば遣いも魅力的でした、の2点。

霧都◆SNOW/oy/Uw
2点。

なみなみお◆o4TtjLxu9A
2点。
極上のデート。
この季節にあった爽やかな風を感じました。
しかし、なにか危うげで、恐ろしい、涼しさが気味悪い。
二人の存在の確かさは、握り締めあった手だけであり、それは愛ということなのだろうだろうか。
どこでもいい。二人でいれば。純愛な詩でした。
世界は不確実だが、そのあやふやな世界の中で二人だけは確実で、世界には二人しかいない。みたいな。
それは、純愛中のカップルそのもの。舞台も最高。
いい恋してるのかな?
単純に羨ましい。白い帽子がオレンジになる。なんて素敵過ぎ。

kamiru◆aeug.wO/8g
3点。
最初から最後まで静かな情景が綺麗すぎます。
一番効果的な帽子の使い方かなぁと。古い夢から新しい夢へと。
きれいすぎて私見はさめません。白からオレンジは変容の証でしょうか。

たもい◆P6tSlrTfiY
1点。
心に残った。
切ないね。掴み所ない彼女、じっとしてないの?遠く見てる。夢にせよ目覚め後にせよ。
そこで「湿った手」がリアル、汗まで愛しいのは目隠しで出会ったから。いつまで繋いでて
あげるのかなぁ、何か話し掛けないの?とか脱線しちゃうね。しんどそうです。
おまけ「イメージ」

皮膚ヘタレ◆.uQr7ysYjs
2点。
ICOというゲームソフトを思い出しました
言葉が通じない少女の手を引くやつです

とにかく切なさが全面に押し出されていて
音を排除した世界はこんなにも素敵、の2点

いかいか◆YffIGX9Bno
1点。
描写はきれい ただ、他のものでも代用可能

グリーンブック◆VZ.CboVnb2
1点。
いいなぁ。

むこうの317◆317..n/Ke6
3点。






準チャンプ作品
 (2作品同点受賞)
Canopus◆DYj1h.j3e.

152 名前:土星さんの帽子.1 投稿日:03/06/22 00:17 ID:Z5WLE2C3
夏至祭の夕暮れにはいつも
偶然のように道ばたで土星さんに逢います

土星さんは自慢の帽子をぴんと立てて
ふわふわ浮いてて
でも足は田んぼの泥だらけで
たくましい二の腕が陽に焼けていて
土星さんは星を見るのがとってもとっても好きで
こんな白夜だと星が見えないね と笑いながら話します

あたしは何か言おうとするけど
土星さんが言ったとたん 本当に太陽は沈まなくて
こんにちは と精一杯の大声で 土星さんの笑顔に付き合って
でも土星さんの本当の顔は帽子の広いツバに隠れて見えない
あたしも星を見るのが好きよ とつぶやきます

土星さんの帽子は立派な縞模様で
広いツバも立派な立派な縞模様で
誰もが土星さんの帽子に夢中で 欲しがって 触りたくて
だから夏至祭の夕暮れにはロケットがいくつも飛び交うけど
土星さんはどこ そんな黄色い国 ほんとかしら
土星さんはあたしと手をつないであぜ道を歩いています

153 名前:土星さんの帽子.2 投稿日:03/06/22 00:18 ID:Z5WLE2C3
あたし土星さんが好き 土星さんの笑顔も好き
たくましい腕も好き 帽子に鳥がとまって つるっと滑るのも好き
土星さんの帽子が好き 帽子の土星さんが好き
思い切って言いたかったけど
かがみこんで土星さんの顔をのぞきたかったけど

土星さんはどこ
土星さんの帽子はどこ
土星さんは帽子 帽子は土星さん
あたしは何も言わないで そんな白夜の国で夢を見て
土星さんの本当の顔は帽子に隠れて見えなくて
土星さんの本当の顔は帽子かもしれなくて
そんな黄色い国 土星さんの笑顔を
あたしはいつまでも見つめていました




たもい

177 名前:帽子から愛 1/3 投稿日:03/06/24 23:53 ID:feRtvNhR
年頃の風俗兎から始まり
今では左官猿やアル中像まで
森は一夏遅れで届いた流行一色

人間文明に乗り遅れるなー!
裸の頭でどの面さげるじゃケダモノじゃ!

  小山のキャンプ跡でニンゲンが忘れていった麦わらを
  夕涼みの栗鼠が持ち帰り記事になったが分布の初め
  乳の四足から空の二足への流れが水際で止ったため
  差別問題へまで発展して「帽子水平社」が設立された

帽子が差別が何処吹く風と
蛙のゲメ子はピョーンパックピョンパック
紋黄蝶はレンゲの甘味を弾けるお尻に持っている
薄羽蜻蛉生まれたて膨れる腹に母のエキスを持っている

跳ばないと食べられない
落ちてる物に興味はない
跳ねれば頭突きで花房割って
抜ければお空にこんなに近くなる

178 名前:帽子から愛 2/3 投稿日:03/06/24 23:54 ID:feRtvNhR
ある日の森へ旅蜥蜴(とかげ)
絵を描き放浪しているという
娘達は一斉凸に帽子を貼り付け
翳(かざ)したレースから色目を使い
刺したブローチ宝石の数を読み上げる

  旅立ち前夜に旅蜥蜴大きな宴を催すと聞き
  蟋蟀(こおろぎ)をかじりながら考えたデメ子、
  「帽子の歴史<水平者出版>」を一夜で読破
  光る夏葉を集め型の崩れぬ帽子を手作りした

宴の広間へとドア開けると
ゲメ子を嘲笑する毛羽毛羽しい万色
旅蜥蜴と向かい合えた長卓で彼女は
宴が終るまで遠くの窓ばかりを見ていた
一通り餞別が渡され何を思ったか旅蜥蜴
連れ帰りたい娘が居ると言いだすから大騒ぎ
ゲメ子を含む娘達は横一列に並び息を呑んだ

人間文明とはこれね、帽子で美を競うのね!
裸の頭にどの面さげるじゃそれじゃ沼の蛙じゃー!

娘達は一同に白手袋の片手を差し出し
旅蜥蜴はゆっくりと列の前を歩き始めた
沈黙の大理広間に宝石の連が息潜め、
ピアノが止み皆が帽子を脱ごうとした時

179 名前:帽子から愛 3/3 投稿日:03/06/24 23:55 ID:feRtvNhR
ピョーーーーーン!
帽子の中の作為を御存じかしら
握手をして死ぬがいいわ脱帽が風穴あけるわ
御丁寧に並んだ貴女がたの付けてる飾りはカラッポ
裸の頭の貴方の心は御見通し、このゲメ子に惚れたわね!

騒然とする大理に滑って転ぶもの
ベロアのカーテンに逃げ惑うもの、
銃弾は次々と凸のギリギリを掠め
一瞬にして全員は裸の頭になった

  今では帽子を被るものなどなく
  しかしながらも新たに眼鏡の流行
  「眼鏡水平社-鳥を守る-」が設立した
  あの旅蜥蜴が帽子を被っていたかどうか
  彼が誰を連れ帰ったのかも知る者は居ない
  確かに最近の蛙は雨に先越されていて
  世間が水浸しになってから聞こえてくる                

ピョーーーーン パック  
   ピョーーーーーーン!
ピョーーーーーーン!