第三十七回
お題:祝
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チャンプ作品
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なみなみお
- 45 名前:ひょっとこのお面 投稿日:03/06/12 23:28 ID:4ZxcoRMp
- 午後5時半
市役所に勤める私は 早々に仕事を切り上げて
車の運転席に座り込んでいた
別に急ぐ用事があるわけではないのだが
それと同じように
残業するほどの仕事もない
キーを回すと
キュルキュルルと音がするだけで
一向にエンジンが掛からない
何度も回してみたが 掛からない
私のため息がハンドルに圧し掛かり
車内には静寂が垂れこめた
フロントガラスに訪れる夕暮れが眩しくて
魔が差した
クラクションに頭をぶつけ
割れるような音の中で
「ちくしょう」とつぶやき
私は苛立ちを抑えて車を降り
電車で帰ることにした
- 46 名前:ひょっとこのお面 投稿日:03/06/12 23:30 ID:4ZxcoRMp
- 午後六時
ホームに着く
ホームはラッシュ時で人が溢れかえっていた
家路を急ぐ会社員や部活帰りの学生たち
ひさしぶりに立ったホームは
居心地が悪かった
それが「慣れ」の問題なのかどうかはわからないが
ヒトゴミの中の私は
いっそう際立っていたような気がする
笑いあっている人々が 目に付く
座席に座り
目を瞑る
うとうとしてきて
私は眠りに落ちた
午後6時半
車内放送で目が醒める
周りの客はほとんどいなくなっていた
私が降りる駅は、ここから数えて4つだ
冴えきらない感覚に
また眠りに落ちては駄目だと言い聞かせ
私は外の景色を眺めていた
左から右へ引き伸ばされて流れる青の風景
青白い畑が広がってそのところどころに
火の玉が揺れている
今日はお祭りらしい
- 47 名前:ひょっとこのお面 投稿日:03/06/12 23:30 ID:4ZxcoRMp
- 電車が短いトンネルを通過したため
景色は一瞬 幕が下りた映画館のように真っ暗になったが
トンネルを抜けても
やはり畑が広がっている
午後六時四十五分
電車が薬師前駅に到着し 私は下車した
私の最寄駅は 次の「嵐ヶ丘」なのだが
なんとなく降りてみた
駅を出ると
駅から山のふもとの鳥居まで
夜店が出ていた
やはり 今日はなにかのお祭りらしかった
夏でもないのに蒸し暑い
祭り特有の騒々しさが
焼きとおもろこしの弾ける音が
綿菓子の甘い香りが
風呂上りの子供達がヨーヨーをしている姿が
懐かしい
客のいないお面屋で
ひょっとこのお面を買い
ショルダーバックにしまいこんだ時
- 48 名前:ひょっとこのお面 投稿日:03/06/12 23:32 ID:4ZxcoRMp
- ほくほくした顔つきの人々の間に
見覚えのある背中を
見つけた
(すこし大柄な女性、浴衣すがたが良く似合うその背中、間違いなかった)
「おかあさん!」
それは私の母だった
去年の4月に肺がんで死んだ母だ
「なにやってるんだよ!?元気か?」と私が尋ねると。
「あら、健ちゃん、今日はお祭りよ。」と母。
「そうみたいだね。お祭りがあるなんて知らなかったよ。」と私。
「何を言っているの?あなたのためのお祭りよ。」と、
口元に優しい笑みを浮かべてそう言った母は
私にうちわを渡して 人ごみの中へ消えていった
「待ってよおかあさん。なにをお祝いしてくれるんだ?」と呼びかけたが
まるで返事がない
- 49 名前:ひょっとこのお面 投稿日:03/06/12 23:32 ID:4ZxcoRMp
- 肩を落として座り込んでいる私に
通りがかる人が優しく声をかけていく
「おめでとう。」 と
ひゅるるる〜〜 どーーーーーーーーーん<BR>
花火が打ちあがる
人々の足は止まり
顔を上げて
花火を見あげている
それでも顔を上げられない私の腕をわっしと掴んだ
ゴツゴツした手
それは私が小学校2年生の頃、海に攫われて死んだ父の手
「さ、立て、よく見ろ。皆おまえのために祝ってくれている。男だろ。」
哀しみの涙は
嬉し涙に変わった
「みんな俺のことを祝ってくれているんだ。。。
なんなんだこの感覚は、嬉しくてたまらない。嬉しくてたまらないよ。
さぁ、一緒に踊ってくれ!」と私は、嬉しさに満ち溢れて起き上がり
なつかしい人々の輪に入った
太鼓と笛の音色に載せて
踊っていた
- 50 名前:ひょっとこのお面 投稿日:03/06/12 23:39 ID:4ZxcoRMp
- 夜の帳が下りて
祭りの後
母を捜していると
木陰に隠れた母が
サっと森の中に消えた気がする
その曖昧になった影を追いかけて森に入った
その瞬間
私は電車の中で目を醒ました
外を見回してみたが
青白く広がる畑だけで
火の玉はどこにも見当たらない
夢だったのだ
母の姿も父の姿も夢だった
でも、本当にいい夢だった
生きる力が湧いてきたよ
お母さん、お父さんありがとう。
でも、僕の何を祝ってくれたんだろうか?
いや、なんだっていいや。なんだっていい。
ありがとう。
午後6時46分
電車が「嵐ヶ丘」駅に到着する
私は 気持ちよく電車を降りて
夏前のまだ涼しい風を感じながら家に向かったのだった
ショルダーバッグの「ひょっとこ」の存在は
まだ気がついていないのだが
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チャンプ作品に対する批評 |
霧都◆SNOW/oy/Uw
2点。
ななほし◆lYiSp4aok.
2点。
なんかすごい、圧力がある。静かな海の中沈んでいくいしき……
詩情主義者メレ◆zc7lZdRUOg
1点。
長編、ご苦労様。おもしろかったです。ただ、これならば小説の形で読んでみたい。
祭の場面など、詩としての体面を保とうとしたのだろうけど、おかげでスカスカになっている。
あくまでも詩にするなら、もっと効果的なスタイルはある筈。
井坂洋子さんの物語詩などを参考にされてみてはいかがでしょう。
結局何の祝いだったのかわからないのは、べつに気にしません。
かえって不思議な感じが増してよいかも。 「魔が差した」がよくわからないのと、「どーーーん」はないと思いますが。
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準チャンプ作品 (2作品同点受賞) |
快楽童子◆plhXCa4.HY
- 37 名前:小瓶 投稿日:03/06/12 00:26 ID:QJYzvAnv
- -え〜い やっさ
-え〜い やっさ
-ふぅね こぎぃ なぁみ あびぃ
-え〜い やっさ
-え〜い やっさ
-おらんくぅにぃ〜
おととし 今年と
とと死に かか死に
浦なし わらじに
編む手の さびれ
のぞき目 ふし目
たしなむ いろ目
見返り浦島 女郎のほつれ
祝されていたのでしょうか
この名もわからなき
てあぶらでくすんだ
ちいさき びんは
一通をよせられ
伝えたきことなど
そして水にながされ
うかんで
小瓶の気持ちなど だれが考えるでしょうか
-ととととと とん とん とん
ツテテテテテテテテテ・・・
-どん
- 38 名前:小瓶 投稿日:03/06/12 00:32 ID:QJYzvAnv
- たちまち 数年
ころびて てがわれ
うらびれ 浜辺に
錦の いおり
しおかぜしみて
わたしの ここ よ
しゃがんでひろう ちいさな すきま
-幾度のしぶきの影おもい
-すきまにしみるは風のおと
-ぬぐいきれないその穴から
「あつい こ え」
ひろった肴は
くびふるための
ものでした
もたれた はしらは
しがみついても
しがみついても
なにもいってはくれませんでした
-え〜い やっさ
-え〜い やっさ
-ふぅね こぉぎ なぁみ あびぃ
-え〜い やっさ
-え〜い やっさ
-おらんくぅにぃ〜
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たもい
- 64 名前:虫の御祝
投稿日:03/06/14 23:13 ID:eWzw2aa0
- 私はこの古いゴム印のせいで
晴れたび一匹の虫を殺す罪人
熨斗は如何いたしましょう・・・
焼菓子の日持ちを気にする客は
税込みで三千円以内に納めたいらしく
中腰で左右持ち比べ揺すっては量(かさ)比べ
「御祝」で
寸志ではいけませんか、
危うくそう問い掛けそうになり
私は草臥れた「御祝」と乱筆とを検討する
自給の安さやセクハラ店長が頭を周りだし
包みかけの煎餅が上げ底であること
愛媛で作られた京都銘菓であること・・・終わりだ
私が祝ってさしあげましょう
煎餅を糖衣のゼリー菓子とすり替え
にちゃり噛めばお子が授かりませよ
透明の歯型には若妻の余命を浮かせて
古い「御祝」を包みに忍ばせた私の精一杯
転げでる毛筆の刻みに
小さな虫が恩返しするたび
ずっと思い出してこの娘の賭け
「祝う」とは多分そういうことだから
晴れの日に摘みだされる私もついでに
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