第十七回

お題:

チャンプ作品 (2作品同点チャンプ)
まげ ◆aSKeZg2Qb.
115 名前:盆上 投稿日:02/10/30 04:50 ID:0MXp9DLe
水面に浮かぶ月を柄杓で打ち割る
2発3発と繰り返し叩く
光の混ざった液体は躍動し舞い飛び、頬をつたう
手を止め息を落ち着かせ私は
これで明日も良い人でいられると
そうでなくてはいけないと
自分に言い聞かせる



チャンプ作品に対する批評
ドン亀◆YdTp8oxx7.
1点。 タイトルがいい。最初3行は差し替え可能。

激辛正当派◆PmUYNHN29Q
2点

霧都◆LWQf3H.k
3点
こういう心境は、誰でも心当たりがあるもので、そこを上手く突いてると思った。
言葉は荒削りだけれど、力強さが勝っている。読んだ瞬間のインパクトを、
いつまでも心に引きずって気になってしかたがたなかった。

マイマイカムリ◆eSBPIliBR2
1点

しいな まほろ◆tYbIWmaS5o
2点。 ストレス解消。

ましゅう◆ACMASyU/iM
1点。

名前はいらない ID:f7mzxHkq
2点。 完成度高いと思いました。もう少しボリュームが欲しかったかもです。





構造◆/Cej999/v6

132 名前:目玉吐(つ)き 投稿日:02/10/30 21:20 ID:gYGUb4ZV
秋の月夜をじっと見ながら
鳴いているのはわたくしではなく
あたたかい外套をまとう百舌が
やせた蜥蜴のはやにえにに
布団を被せたくてたまらずに
いたづらをしてみたその音です

どうだどうだとその嘴で
やせたからだを啄ばむ姿は
月と養鶏場のライトのせいで
わたしの蒼く昏い目から
しっかりと見えて

突然それらの光はあわさり
百舌ははっきりわたしを見据え
ついには目玉は横へと広がり
にやりとなめずるような顔で
わたしのすがたをながめました
133 名前:目玉吐(つ)き 投稿日:02/10/30 21:21 ID:gYGUb4ZV
それのあまりのおどろきに
突然わたしのくちから
ぽとりぽとりと玉子の目玉が
いくつもいくつも落ちだして
ついにはお池となりはてました

硫黄のにおいのするそれらのめだまは
ふたつよっつやっつとわかれ
かぞえきれぬ数の目となり
そうしてぎょろぎょろながめつつ

いまにもかたまり姿をつくり
そうしてついにはうまれようとするので
わたしはそれらの池へはいり
踏もう踏もうと溺れゆき
ついには沈みきってしまい

それでも
表面にうつる幾億の月は
つぶれずに残り
メルヘンという硫黄の匂いを
たてながらぢっと座って湯気を立て
じいっと夜のあいだに増殖し
134 名前:目玉吐(つ)き 投稿日:02/10/30 21:21 ID:gYGUb4ZV
霧がすっかりはれて
あさになると
それは黄色い色すらもたず
ぷかりぷかりと蓮華の湯花を
浮かべた風呂で
わたしはぽかりぽかりと
とてもよくあたたまったすえ
ごろりところがっておりました。

そうして月がはじける音は
みえないまんまに
雲のさらに
幾億尺というちかさで



チャンプ作品に対する批評
ドン亀◆YdTp8oxx7.
3点。
アラは多い。が、それにも増して魅力的なヴィジョン。
現代の日本昔話、なんて逆説的な感想も。

激辛正当派
◆PmUYNHN29Q
2点

マイマイカムリ
◆eSBPIliBR2
1点

しいな まほろ◆tYbIWmaS5o
3点。 卵の目玉に月がいっぱい。すごい。

ましゅう◆ACMASyU/iM
1点。

名前はいらない ID:f7mzxHkq
2点。 不思議な感じが良いです。





準チャンプ作品
ドン亀◆YdTp8oxx7

201 名前:ジュウゴヤ(1) 投稿日:02/11/02 23:53 ID:kZambJOL
鍔付きのヘルメットは、夜空が見えないから好きだ
スクーターしか乗らないのは、足を使わなくていいから
ビルの高さまでの視界の街を、いつも通りに駆け抜けて家に帰る
今夜は13番目、かなり真円に近づいている筈

父は今日もまた居間で、何やら書き物をしている
僕は25インチTVモニターの中で、月を飼う

餌は月の模様の入った、蛾だけ
ピンセットでつまんで、モニター内に入れてやると
蛾は自然と、月に吸い寄せられ
ふたつは震えて、ひとつになる

13番目の月は、まだちょっと頭がおかしい

コンピューター・プログラムに、身体を乗せて
今日の仕事も、あと残すは15%
窓の外に、早い闇が降りる前に
黒い街を抜けて帰り着き、人心地

今日の月は、14番目
次の日に絶頂を迎える、一番しあわせな

TVモニターの中で、月は
とても不安そうに、震えている
明日で正常になるのが、怖いのかい?
父は居間で、何やら書き物をしている
202 名前:ジュウゴヤ(2) 投稿日:02/11/02 23:57 ID:kZambJOL
一ヶ月が嫌いだ、そんな区切りは
地球のまわりを、不吉な岩が一周するだけの
僕にとっては他人事、世界の外の出来事
そんな時間が、「また何もなかった」と僕を苦しめる

コンピューター・プログラムに、身体を乗せて
仕事をするが、気持ちまでが乗らない
今日は15日目、完成の月だから
窓の外、家につづいている道路にばかり目が行く

父が書いているものが、遺書だと知った時は
おかしな気持ちがしたものだ
まだ人生3分の2を過ぎたばかりの父が
毎日、居間で遺書を書いている

今日、帰ったら
月は、はじめに何と喋るだろうか?
明日からは、どんどん大きくなって
喋る言葉も多くなって行くのだろうな

優しい笑顔を、見せてほしい
かわいい言葉を、聞かせてほしい
203 名前:ジュウゴヤ(3) 投稿日:02/11/02 23:58 ID:kZambJOL
退社時刻になって、急に雨が強く降り出して
スクーターは会社に置いて、バスに乗る
バス停から家まで、10分も足を使わなくてはならないが
仕方ないと諦め、コンビニで黒い傘を買った

小止みになりはじめた雨の中を、うつむいて駆ける
やけに世界が生臭い、やけに気配が赤黒い
水溜まりに何か、赤い塊が映ったような気がして
必死に、遅い足を急がせた

血に濡れた眼球のような塊に、上から
見下ろされているような気がして、遅い足を急がせた