第十六回
お題:落葉
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チャンプ作品
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撫子さん◆ikeEr7LE3I
- 729 名前:Buuuuurn!! 投稿日:02/10/18 00:40 ID:l22vmYsw
- 山は落ち葉で出来ている
落ち葉の下にも落ち葉があって
掘っても掘っても落ち葉の匂い
たまに死体の匂いがしたりもした
落ち葉の上で煙草をふかすことが、どれだけ危ないことかなんて
あの頃の僕は知らなかった。かっこいいと思っていたわけじゃな
く、ただ本当に煙草がうまかった。特にその場所では。カエデ、
ニシキギ、ヌルデ、ドウダンツツジ、そしてイチョウ。そんな落
ち葉たちに囲まれてふかす煙草がどれだけうまかったか、きっと
同級生どもにはわからなかったろ。
落ち葉たちは、落ち葉だった。
虫食いや、末枯れに彩られた葉は、木にしがみついている奴まで
落ち葉だった。下に落ちている奴は、腐葉土からゾンビ葉、虫の
棲家、液体落ち葉、人間好みの落ち葉まで、どいつもが美しく、
触れたくないほど汚いものだった。僕は、人間には考えもつかな
いほどの意外なかたちを探しながら、煙草をふかすのだった。
親父は煙草を吸わない人で、時間に決められた生活をしていた。
夕飯までに帰らないと殴られるので、鴉が鳴く前に僕は鞄を持つ。
どうして親父に従わないといけないんだろ。僕は下山した。
下界
に降りて、気がついたことは。人の目がある世界って無色だ。す
べての色は、すべての目によって色を奪われてしまう。すべての
手によって作り替えられてしまう。たとえばルージュの広告。そ
れはビルの最上部に貼られて目線を待っている。誰の目にも気に
入られるように、無色の赤で作り替えられている。
山の紅葉はどんなに赤かったか。振り返って思い出そうとした。
- 730 名前:Buuuuurn!!(続き) 投稿日:02/10/18 00:41
ID:l22vmYsw
- 今、降りて来た山を振り返った。すると山が燃えているじゃないか。
- ちょうど僕が煙草をふかしていた辺りから、どくどくと黒い血を
噴き上げているじゃないか。僕が気づいた途端、炎は紅葉の山か
ら立ち上がり、僕の瞳を焦がして燃え移った。
通りの向こうから
親父が僕を捕まえに来て、「ヒデヒロ、食事だぞ」と犬が唸るよ
うに言う。魚屋の政さんが、「いらっしゃい、いらっしゃい」。
呉服問屋の若旦那が庄屋さんと立ち話、「本日はいい天気でござ
いますねぇ」。時計屋の主人は無愛想な顔でスーパーマーケット
の袋を持って通り過ぎて行った。
僕は、「火事だ! 山火事だよ!」
と、西のおっぱい山を指さす。大人たちは声を揃えて、「紅葉だ。
紅葉だ」「紅葉すれば、ドライブインが儲かる」「燃え上がるよ
うな紅葉だ」「ああ今年はいい紅葉だ」。まるでミュージカルの
合唱みたいに。ダウン症の徳ちゃんだけが、僕と一緒になって怯
えていた。犬のようにキャンキャンと叫んで、連れのお母さんは
「よしよし、ドウドウ」と、徳ちゃんを連れ戻した。
その頃には、西のおっぱい山は完全燃焼。きっとあちこちに埋葬
されていた殺人死体もお蔵入り。夕焼けの終わろうとしていた空
をもう一度赤く染めた。落ち葉は無数の火の玉に化けて、一枚一
枚、空へと駆け上がって行った。
山は落ち葉で出来ていて
燃え上がったならすべてが燃えて
落ち葉の底まで燃え尽きて
跡形もなく消えてしまって
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チャンプ作品に対する批評 |
Canopus◆j1h.j3e.
1点。 いろいろと素材を詰め込んだのは成功。
ただ、「西のおっぱい山」が前半で出てこないなど、粗さも目立ちます。
激辛正当派◆PmUYNHN29Q 2点
こなれてない、と思う部分も多い。詩的であるよりは小説的な書き方。
あと、最後の連をつけず、幻想的に終わらせた方が印象は強くなったはず。
しかし、巧妙な人物の書き方と、燃え上がる山を幻視させた力量は確かなものがある。
霧都◆LWQf3H.k
2点
上手い。読み手に与える、狙ったような、居心地の悪さ。それはとても効いている。
もっと時間をかけたら、もっと良いものが出来たのではないか?とも思う。
都立家政◆L7EROpoemk 【3点】
729-730の「Buuuuurn!!」
マイマイカムリ◆eSBPIliBR2
2点
勢いがあって読ませます。ありがとう。
しかし、「燃える紅葉」「山火事」は技巧が見え過ぎる連想ではないか。
「地中の死体」によってさらに狂気じみて転がせることができれば、もっと凄い作品になったろう。
碧谷◆m0T5I/FREE
2点:>>729 Buuuuurn!!
うたた寝死人◆WvShSU0mOg
2点
730に入ってからの、パニック映画と平穏な田舎の日常との同時映写がとても面白いです。
周囲の人の描写の、その区切り方と羅列が、うろたえる主人公視点の画のスピードを感じられていいなぁと。
「徳ちゃん」などのリアルを感じられる存在や余韻を残す最終連、729の山や落ち葉の説明に味がありました。
構造◆/Cej999/v6
3点。 チャンプ候補はBuuuuurn!!
これがとにかく飛びぬけてたと思うです。
あえて感動性を廃した構図が、イメージそのものを引き立たせてると思う。
紅葉の汚さを書いたことが僕的には一番の理由。
むこうの317◆317..n/Ke6 2点。
詩というよりチョトした読み物という感じがしますたが、楽しく読めますた。
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準チャンプ作品 |
クロラ ◆oNwpnhIJYU
- 616 名前:けむる森 投稿日:02/10/11 22:18 ID:M3ia4+qm
- 透明な、水銀の実る、縁には何故か
赤い喉をした蛙の一匹が、水に片足をつけて陸を向いてそこに居る
私は、潜水具をつけたからだで、湖の一メートル程、
内側に入り、そこに、ひとまず座り込み
腰から下を、そっと、粘性のない液体につける
湖底を覆っているのは、見える限り、おそらくは
紅葉樹の葉であり、それが朽ちもせず
敷き詰められては、今も私の下で重なりあっている
思うよりは、硬く、脆くはなく
砕けるよりは、しなやかに曲がる
そして私は両手をも水につけて
真っ直ぐに視線を放つのだが
こうしてみると、上空、低く薄い靄の下に
私が潜り込んで隠れているのが分かる
私は水遊びをする子供のような仕種で
片手をすぐ顔の前に持ってくると、
こうした姿勢というのは、当たり前の潜水夫には
決して分かられはしないものだと思う
水につけてよりすぐに、やはり下半身は低温が侵入し
感覚をなくしているのだが、あの独特のかゆみを感じていて
今には、それが全体に、響き低く発熱しているように感じられた
ようよう、私は腰を上げ、沖合いへ歩き、
立ったまま半身が埋まる頃に、
水面をできる限り波立たせぬよう
膝を少し曲げ、頭頂から潜り込んでいった
(続く)
- 617 名前:けむる森(続き) 投稿日:02/10/11 22:19 ID:M3ia4+qm
- 湖の中で、湖底はアリノス状に中心に深くなっていて
私は斜めにその先へ刺さっていった
やはり生物の居ない、僅かに白濁した水質であり、
透明度が高いのでかなり先の湖底を見ることができるが、
底には水草ひとつなく、縁と変わらずに落ち葉が、
堆積している
中心近くまでくると、深度はかなり高く、
見上げることもないが、辺りはふいに暗くなった
そこで、相変わらず湖底を覆う落ち葉は朽ちもせず
ただ、段々と、黒く、深く、変色している
奥へ、
私は深く突き刺さり
今や、湖底近く積もった落ち葉を掻き分けようかという頃に、
腕の先で、動かした手が水を回し
それと共に、すぐ近くまで迫っていた黒い落ち葉が、
一瞬に舞い上がって、私の目の装備に張り付いては落ちた
その次には、私はほとんど湖底に顔を埋めるようになっていて
眼前が迫ってきた
だが、そこには何もない
変わらぬ灰とまだらの黒ばかり
落ちている
はずの友人のからだ
そして、私は、突き刺すように手を伸ばし
その先へ
からだを、至らせようとするが、
近付いては、やんわりと反発されて戻り
巧くいかない
そうするうちに、乱れた落ち葉が何度も視界に渦巻き
張り付いては、一枚の仔細な形を
見せては落ちて、流れていく
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