第十回

お題:車輪

チャンプ作品 (同点3作品 チャンプ賞受賞)
うみのせい
62 名前:黒い巨音 投稿日:02/08/10 23:22 ID:65ZuDoIA
糸巻ボビンの
転がる音は
コロコロコロ

それが
ゴロゴロゴロ
に聞こえる
小さな世界がありました

そこに住む人たちは
塵の砂利で
小さな広い駐車場を作って
たくさんの蚤のような車を
いっぱい集めて

遊園地で遊ぶのです
毎日 毎日
木屑やオガ葛の
質素な遊具で
ぶらんぶらんしたり
ぎっとんばっとんしたり
楽しく遊んで
暮らしているのでした
(下へ続く)

63 名前:黒い巨音 投稿日:02/08/10 23:23 ID:65ZuDoIA
(上からの続き)
ある日
それまでは遠くにしか見たことのなかった
巨大な黒いゴムのボビンが
駐車場の坂を
降りてくるのが見えた
と思った瞬間に
それは駐車場も遊園地も
包み込んで
潰して行きました

私が昔おばあちゃんから聞いた話
覚えているのは
ここまでです

その時の音は
(コロコロコロ)
どんなものだったでしょう?
(ゴロゴロゴロ)
私には勝手な表現などできません
(      )

それでもなぜか
私は聞いたような覚えがあるのです
その煤臭い漆黒の車輪の音を

そして 今
家の前
坂の上
その向こうのほうから



チャンプ作品に対する批評 (通常審査、協議分含む)
Canopus◆j1h.j3e.
世界の作り込みにやや甘い点がありましたが、それでも情景描写は的確で、よく伝わってきます。
詩の完成度としてはこれが一番だったかも。
2点。

wildcat◆nyancoBs
読んで楽しいという意味では、これがNo1でしょう。
ボビンの正体も、主人公がなんなのかも、最後までわかりませんでしたが、
余韻を持たせた最後が、どうにも魅力的でした。
ぎっとんばっとんという擬音語も心地よいです。
ただ、もう少し正体を明かしてもらってもいいのではないでしょうか。感情移入しそこなった感じがありました。
ってことで、2点。

撫子さん◆eEr7LE3I
自動車のタイヤよく考えたら恐い音シャラシャラシャラ

ネッちゃん◆/a8bMydI
なんて説明したらいいのかわかりませんけど
なにか心の奥の無意識の領域に触れてしまったみたいです
子供の頃遠くから妙な音がよく聞こえてきて
姉と二人で心細くなっていたのを思い出しました
たぶん読む人の記憶に訴えてくる詩なんだと思います
もしかしたら人類の記憶にも?
3点です

よく読んだら誰の感情も書かれていないんですよね
黒い大きな音が転がってきて
恐かったのか、悲しかったのか、嬉しかったのか
ぜんぜん書いてありません
出来事だけです
だから読者の感情が自由にされるんだと思います
価値とはばっさり切り放されて彼岸にあるような感じ
中原中也みたいな感じを受けました





画廊主人 
SEE ME


77 名前:蝉車輪 投稿日:02/08/12 08:59 ID:Q51f7OZq
夏の終わりの昼下がり

片羽根なくした油蝉
残った羽根をばたつかせ
空回りする車輪のように
アスファルト路面を
どこにもいけず
ただその場をぐるぐると
ひたすら回る
ただ回る
くるったように回り続けてる
ギーギー
油の切れた歯車のように
バタバタ
風に叩かれる扉のように
路面と摩擦する苦鳴は
せつないほどに
鼓膜を叩く

それは喚き散らす蝉の泣き言

私は車輪です
二度と走れない
壊れてしまった車輪です
空回りするだけの車輪です
ブレーキはありません
でもいつか動きは止まるでしょう
そして二度と回ることはないのです

78 名前:蝉車輪・続き 投稿日:02/08/12 09:01 ID:Q51f7OZq

やがて回転は緩やかになり
泣き声も静かになりだしたが
たしかに止まることはなかった

しずかにもらす最後の言葉

でもあんたの一生だって
そんなもんでしょう
意味なんて蝉の空回りほどにも

ない

その通りだったから
まだ回り続けてる蝉車輪
そっとつま先で抑えて
力を込めてやった
くぐもった音を立てて
回転はようやく止まった

もう
夏も終わろうとしていた



チャンプ作品に対する批評 (通常審査、協議分含む)
Canopus◆j1h.j3e.
蝉は、成虫として1週間しか生きられないんですよね。
土の中で、ぬくぬくと過ごす幼虫時代は、きっと幸せなんだよって誰かが言っていたのを思い出します。
なんと言っても着眼点の鋭さが光ります。
断末魔の蝉を車輪に見立てることはなかなかできることではありません。
そっと引導を渡す描写も心に残ります。
ただ、ことば遣いに、おおっと驚くような場面がないのも事実です。
平易なことばと表現で充分に描写しきったのは評価できますが、
一方では物足りなさも感じましたねの2点です。

綿密な語り口と着眼点の面白さに惹かれました。「ブレーキ」の比喩だけは、やめてほしかった。

wildcat◆nyancoBs
車輪というテーマから、セミが出てくるとは、それだけでも充分すごいとこです。

 >でも、あんたの一生だって
 >そんなもんでしょう
 >意味なんて蝉の空回りほどにも

 >ない

 ここが一番言いたかったことでしょう。「ない」の前に1行開けて間をとったところは、テクニシャンですね。
インパクトを強めるのに、有効だったと思います。
でも、セミがそういう飛び方するのは、生れてすぐのイメージが強いので
(夏場に、朝早く雑木林に行くといくらでもお目にかかれます)、
そこがちょっと違和感を感じました。
 でもって、2点。

ネッちゃん◆/a8bMydI
ニヒリズムは嫌いですけど
その認識がなければ人生は始まらないんですよね
徹底的にニヒリズムに気づかされた夏の終わりに
蝉を踏んづけた足はやっぱり優しいのだと思いました
3点です

価値はない虚無だという価値観で固まっていますよね
車輪のテーマが頭にある時に
地面でひっくり返ってもがいてる片羽の蝉を
ニヒリストが見たら
ぱっと考えついちゃえる詩だと思います
でもやっぱりこの詩の一番いいところは
蝉を踏んづけちゃうところだと思うんです
しかも「そっと」です
私は植物人間を安楽死させてあげる植物人間のような
優しさを強く感じました
なにより全作品のなかでこれが一番泣きました





isuka


96 名前:輪々と (1/2) 投稿日:02/08/14 03:36 ID:7Tr7aqgw

どんよりとした雲
いつまでも鳴り響く夜汽車の車輪
けれど
車内は静まり返っていた
それは
嫌々ながらも
寝床でつき合い慣れた耳鳴りのように
「しずかだね」
「うるさいわ」

闇に波打つ夏の草原
開ける車窓から暑く蒸した空気層の翻り
これは
青い香りに充ちた温室のようだ
無断で立ち入り摘み盗った
一輪の花は
僕の手の中で刻々と疲れをみせて
「みずをあげよう」
「いつまで?」

陰鬱な蛍光灯
僕と君の指に鈍く光る輪っかは
僕と君の誓いを繋いで久しい
けれど
時々外して転がして
弄び始めたのはいつの頃だったか
「きれいだよ」
「ありがと」


97 名前:輪々と (2/2) 投稿日:02/08/14 03:37 ID:7Tr7aqgw

降り出す黒く透明な雨
車窓のガラスを叩き歪ませる
あの時
願いは追いつかなかった
壊れて雨に濡れた三輪車
小さな希望と共にもう漕ぎ出すことは無い
「おもいだすね」
「わすれたいわ」

環状線
僕らの長い旅
停車駅は目に入らない
思えば最近
君と視線を合わすことが少なくなった
どちらが逸らしているのか
この鉄のレール上から外れたいのか
「なにをみているの?」
「どこまでいくの?」

雨が止み静けさを増す
けれど僕の視界は歪んでいた
際立つ車輪の音
頬をつたう水滴
外を見上げれば
雲間から覗く夜空の一輪が無数に綻びだして
「こわいんだ」
「どうして?」

お月様が追いかけてくる



チャンプ作品に対する批評 (通常審査、協議分含む)
Canopus◆j1h.j3e.
確か「凛々と」というテレビドラマがありましたね。
題名は、それに掛けているのかな。
一時の驟雨を駆け抜ける夜汽車に、二人の想いが交錯する。
静謐の感情と簡単な会話とのリズムが心地よいです。
最終、月夜がこぼれ落ちていく情景を、リズムを壊して綿密に描写するのがよかったかも。
最終行で詩の完成度がガクッと落ちてしまいました。しかし、それぞれの連の余韻とたたずまいに3点。

それでも、走馬灯のような情景の変遷と美しいことば遣いが私を捉えて離さなかった>>96-97に3点。
画竜点睛を欠くような終わり方には不満でしたが。

wildcat◆nyancoBs
全然違うことを考えていてもそれでも一緒に歩いている。そんな夫婦像を感じました。
寝台列車でのアダルトな旅。お互いの距離を測るようにどうにもかみ合わない会話。
こういう世界には、私は初めて出会ったと思います。
とても新鮮でしたし、高い完成度を持った作品だと思います。
最後の「お月様が追いかけてくる」には、ちょっと安部公房を思い出させますが、
じょうずな使い方だと思います。ってことで3点。

撫子さん◆eEr7LE3I
想像すると笑えるのが老夫婦のまじめな会話だよね






準チャンプ 該当作品なし