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537:快楽童子 ◆plhXCa4.HY 6/8 17:11
以前交通量の少ない裏道でこんな位置で車が停まってた。
━━━━━━━━━━━━
■←停まってる
━━━━ ━━━━━
┃↑.. ┃
┃□.. ┃
┃俺.. ┃
┃ ┃
俺は左折したかったんだけど、この車が邪魔でかろうじて曲がれない感じだった。
なんでこんなとこ停めてんだよ!と思いつつ何回か切り替えしして
さあ行こうと思ったら、車の中で誰か寝てる。
おっさんだ。
しかも横向きで寝てる。仮眠を通り越してる。あきらかに仕事サボってる。
「(快Д楽)コノヤロウ、、、」
住宅街だったからクラクションならすとか、おっさん怒鳴りつけるとかしてたら迷惑になるだろうと思い、
でもなんか悔しいから仕返ししてやろうと思って自分の車の中を見回すと、
サンバイザーにうちわが挟まってた。
おっさんは目が覚めた。
なんの愛着も湧かない商品の営業を始めてはや三年。
以前勤めていた工場をリストラされ、未経験の営業畑に飛び込んだはいいが
まるでやる気がおきない。そもそも対人が嫌でライン工を続けていたのに
なんお因果かもっとも苦手な分野に就いてしまった。
もちろんおっさん自身が、自分で選んだ職種である。
しかしおっさんは自分の人生における負の部分の一切は、それが他人のせいであると確信していた。
「あんな若造が上司じゃやる気もでねーよ」
むろんこの上司とはおっさんからしたら若造というだけであって、
一般的な尺度でいうと若造という範疇には入らない。
端からおっさんと上司のツーショットを見ると、たんなるオヤジ同士にしか見えないであろう。
「俺にやらせりゃもっとイイもん作れるのになー」
営業成績がはかばかしくなくとも自分の営業姿勢にはなんの疑いももたない。
そして常々製作部の者たちに経験も知識も加味されない思いつきのアイデアを「教えてあげ」て、
売れたあかつきにはアイデア料をもらわなきゃなぁと半ば本気の口調で言っている。
取らぬ狸の皮算用もいい所の楽観人生でここまでやってきて、
そしてそれはひどく迷惑がられていて、しかもおっさん自身はそれに気づいていない。
まったくやる気のでない営業職ではあるが、外回りの時においてそれは一変する。
自由。もちろんおっさんにすればそれは「サボれる」ということである。
これこそがおっさんが唯一この職を続けている理由であり、それ以外には何者も存在しない。
「さ、そろそろ行くか」
サボった後はいきつけの自動販売機に寄って缶コーヒーを飲んでから営業所まで戻る。
これがおっさんのこの三年間の全てである。
上機嫌のままのおっさんは人気の下降したグループサウンドを鼻腔で振動させ、
今夜の居酒屋ナイトを股間に湿気をふくませながら妄想し、
営業所で唯一おっさんのメガネにかなう受付嬢の腰のラインを思い浮かべる。
かけっぱなしのディーゼルミュージックは熱気を帯び、
軽油とエンジンとボンネットが織り成す灼熱のダンスにアクセルをそそぎ、
ローからセコンド、サードまでを代謝物をこすりつけながら滑走していく。
リアウインドウのワイパーに
「おっさんが乗っています」
と、書かれたたうちわが挟まっていることも知らずに。
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